東京地方裁判所 昭和37年(ワ)7997号 判決 1963年4月26日
判 決
亜米利加合衆国紐育洲
紐育三八ジヨンストリート九九番地
日本における営業所
東京都千代田区丸の内三丁目一四番地
東京商工会議所ビル内
原告
グレート・アメリカン・インシユランス・コンパニー
日本における代表者
ランス・ラ・ビアンカ
右訴訟代理人弁護士
藤平国数
群馬県渋川市一六九二番地の一六
被告
朝比奈運送有限会社
右代表者代表取締役
朝比奈松雄
右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。
主文
1、原告の請求権を棄却する。
2、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「1、被告は、原告に対し二四二、〇八八円およびこれに対する昭和三七年一〇月九日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。2、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、つぎのとおり述べた。
一、訴外大淵博は、昭和三七年六月一四日午前七時五〇分頃大型貨物自動車(群一―あ―二三六三号)を運転中東京都北区昭和町一丁目九番地先道路上において訴外戸口要の運転する訴外向久運輸株式会社所有の大型トラツク(埼―一―あ―二九四号)と衝突事故を起した。
二、(一) 右衝突事故は、訴外大淵が王子方面から三河島方面に向つて進行中訴外向久運輸のトラツクを一旦追い越した際反対方向から進行してくる車があつたためあわててハンドルを左方に切つたところ、折柄道路前方左端でパンク修理のため駐車中の他の車に激突、急停車し、その反動で自車の後部を向久運輸のトラツクの前部に更に激突せしめたために生じたものであつて、これによつて同トラツクは大破するにいたつた。したがつて、この事故は、訴外大淵の無謀追越、無謀運転にもとずくこと明らかであつて、同人の過失によつたものというべきである。
(二) しかして、訴外大淵は被告に雇われ、その業務として自動車運転中にこの事故を起したものであるから、被告は、民法七一五条一項の規定により、右事故によつて生じた損害を賠償すべき責を負う者である。
三、訴外向久運輸は、その頃右事故によつて大破した自動車の修理のため二五七、〇八八円の支出を余儀なくされて同額の損害をうけ、被告に対してこれが損害賠償請求権を取得した。
四、原告は、さきに向久運輸との間でその所有にかかる前記自動車について締結していた自動車損害保険契約にもとずき、昭和三七年七月二七日右損害金から免責約款にもとずく一五、〇〇〇円を控除した二四二、〇八八円を保険金として向久運輸に支払うことにより、この支払金額の限度において向久運輸の被告に対する前記損害賠償債権を取得した。
五、よつて、原告は被告に対し損害金二四二、〇八八円とこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和三七年一〇月九日以降右完済にいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。
一、請求原因第一項(事故の発生)および第二項((一)訴外大淵の衝突にいたつた事情および(二)被告の損害賠償責任事由)のうち追突の反動によつて訴外戸口の運転する自動車に衝突したとの点は否認するがその余の点は認める、本件事故が訴外大淵の運転上の過失にもとずく旨の主張は否認する。即ち、訴外大淵が被告の自動車を修理中の自動車にぶつつけ、その勢でその自動車を押出した途端に向久運輸の自動車が被告の自動車に追突したのである。この場合でも、向久運輸の自動車の運転手たる訴外戸口としては、道路交通法二六条の定めるところにしたがい、直前を進行していた被告の自動車が急に停車してもこれに追突することをさけることができるために必要な距離を保たなければならなかつた筈である。あるいは左右いずれかがハンドルを切るとか、急停車の処理をとるとかしたのかも知れないが追突したところからすれば、自動車自体に故障があつたのかも知れない。いずれにしても訴外戸口は自動車運行上の注意義務を怠つたものであつて過失の責を免れないというべく、訴外大淵の過失というをえない。
二、請求原因第三項(損害の発生)および第四項(保険代位関係の存在)は認める。
(立証関係)≪省略≫
理由
一、請求原因第一項(事故の発生)は当事者間に争がない。
二、請求原因第二項中((一)(過失の存否の事実について判断するに、訴外大淵が王子方面から三河島方面に向つて進行中訴外向久運輸のトラツクを一旦追い越した際、反対方向から進行してくる車があつたためあわててハンドルを左方に切つたところ、折柄道路前方左端でパンク修理のため停車中の他の車に激突したことは当事者間に争がない。成立について争のない甲第一号証によれば、その衝突が激しかつたため修理中の車が更に前方の街路灯や街路樹に損傷を与えたことを認めることができるけれども、訴外大淵の運転していた被告の自動車が衝突の反動で後方にはねかえつたとまでのことを認めることができる資料はない。むしろ右甲第一号証の記載に同第二号証の記載を合せ考えれば、訴外大淵が被告の自動車を追越した後約三〇メートル進行した時後方から追越そうとするタクシーがあつたので、ハンドルを左に切つたところ、道傍に駐車中の故障車に追突して停車したが、故障車は前方に押出されて街路灯と街路樹にぶつかり、後続自動車を運転していた戸口はブレーキを強く踏んだが荷物を積んでいたのと雨で路面が濡れていたため滑り大淵の運転していた被告自動車の後部ボデイに自車(訴外向久運輸の所有車)の前部を追突し、損傷をうけるにいたつたことを認めることができ、反対の証拠はない。そうしてみると、本件衝突は、訴外大淵が運転する自動車が反動で後方にはねかえつて訴外戸口の運転する自動車に衝突した場合というべきでなく、むしろ、訴外戸口の運転する自動車が訴外大淵の運転する自動車に追突した場合にあたるというべきである。そして、訴外大淵の追越がこの衝突の原因となつたことをうかがわれるような事情はなにもない。
この間の事情から考えれば、訴外大淵が道路の前方左端で修理のため駐車中の自動車に追突したことについては同訴外人に全く過失がないとはいえないかも知れないけれども、この過失と訴外大淵の運転する自動車と訴外戸口の運転する自動車との衝突の間には直接の関係なく、相当因果関係があるというをえない。被告の主張するように、訴外戸口運転の自動車が同一進路を進行する訴外大淵運転の自動車の直後の車輛であつたのであるから、この衝突は、道路交通法二六条所定の車間距離保持の制約は訴外戸口にかかり、同訴外人がこの制約を守らなかつた過失によつて生じたものというべきである。
三、したがつて右衝突が訴外大淵の過失によることを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由なく、失当として棄却すべきものというべく、訴訟費用の負担について民訴八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判官 小 川 善 吉